【わけ:あり】ナイトクルーザー|「ノーサイド」2008/4/24

【わけ:あり】ナイトクルーザー

2008/4/24:ノーサイド
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《ノーサイド》
彼女は、今年大学を卒業したばかりの社会人一年生。
とはいえ、去年の公務員採用試験に落ちて、今は就職浪人中。
家事手伝いなど許される家庭ではないので、とりあえずアルバイト生活でつないでいる。

公務員の父は、根っからのラガーマンで、60歳間近の今も、日曜日には、若いラグビー仲間と楕円球を追いかけている。
そんな父に連れられて、小さい頃からラグビーをみてきたせいで、彼女もラグビーが好きだ。
高校時代から大学卒業まで、ずっとラグビー部のマネージャーをやってきた。
それも、コーチに近いマネージャーで、後輩からは姐御のように恐れられた。
だから、彼女は正真正銘、筋金入りのラグビー・ウーマン。
練習や合宿では、選手達と一緒にトレーニングも積んできた。
だから、今でも身体には無駄な脂がないので、プロポーションには自信がある。

年頃の女の子ではあるが、毎月購読する雑誌は、もちろん「ラグビー・ジャーナル」。
最近は、ときどきファッション誌も読むことはあるが、買うまでもない。
彼女の憧れは、早稲田ラグビー部の元監督・清宮さんで、彼女の机の上には、彼の生写真が額に飾られている。
だから、彼女の基準は、彼のように頭が良くて、クリエイティブで、なおかつラグビーが上手い男でなければいけない・・・・らしい。

彼女は卒業後、父の奨めで地元のラグビー・チームのマネージャーになったが、このチームには、彼女の基準をクリアできるような男は、まったくいない。
せめて、ラグビーだけでも上手くなれよ!と、いつも思ってる。

ところが、練習試合で対戦した相手チームに、とんでもなく脚が早くて、パワフルな選手がいた。
どこかで見たことあるような・・・・、
そうか、数年前に花園に出場して高校選抜に選ばれたあの選手だ!
彼女の心臓が、今までにないほど高鳴った。
父の影響で、幼い頃からラグビーに親しんできた彼女は、大学卒業後も、地元クラブチームのマネージャーになった。
そのチームの練習試合で対戦した相手チームのエースに彼女は一目で恋をした。

彼は、高校時代に進学校のラグビー部に所属し、地元の強豪校を破り、見事、花園の全国大会に出場した。その時は、残念ながら一回戦で負けたが、県の高校選抜に選ばれ、ニュージーランドまで遠征した経験があった。

高校卒業後は、ラグビーの名門大学に進学し、体育会系のラグビー部で活躍した。
衛星放送の「ラグビー・チャンネル」では、大学のリーグ戦も放送していたので、彼の活躍は、よく見ていた。
その彼が、何故地元の草ラグビーのチームにいるのか?とっても不思議だった。
だって彼なら、トップリーグに所属する有名企業でも通用すると思うもの。なんで・・・・。

そんな疑問を抱きながらも、しかし目の前でプレーする彼の勇姿に、ただただ見とれてしまった。
味方チームが、彼のせいでボロボロに負けていても、そんなことはどうでも良くなっていた。
彼がトライを決めるたびに、拍手をしそうになって、チーメメイトににらまれた。

散々な結果の練習試合が終わった後で、思い切って彼に近づいて話しかけた。
爽やかな汗にぬれた彼が驚いたように振り返った。
彼女は勇気を出して、ペットボトルの水とタオルを差し出した。
彼は、笑顔でそれを受け取り、一気に飲み干した。一息ついた彼は気を取り直したように
「君、高校時代、となりの学校でラグビーのマネージャーだたでしょう?」と言った。
思いがけない彼の一言に、驚いた。
私のこと、覚えてくれてたんだ・・・・。でも、なんで?

憧れのラガーマンだった彼が、高校時代の私の事を覚えてくれてた。
とっても嬉しかった。でも・・・なんで知ってるの?
彼に尋ねると・・・・
彼女の高校のラグビー部に、彼の後輩が入っていて、私の事を話していたと言う。
鬼のように厳しいマネージャーで、やたらとラグビーに詳しくて、監督もタジタジだった・・とか、一緒に練習したがる珍しい女だ・・とか、とにかく選手より目立つマネージャー・・・だったらしい。
そう彼に言われて、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
でも、そんな話をしているうちに、なんだか初めて話しているような気がしなくなった。

思い切って彼にたずねた。
「どうして、地元の草ラグビー・チームに入ったんですか?
 貴方ほどの選手なら、トップリーグにも行けたんでしょう?」

彼はちょっと顔を曇らせて言った。

「親父が死んで、家業を継ぐことになったんだ。でも、こうして地元でもラグビーができるから、俺はそれでいいんだ。」

彼のそんな切ない現実に、彼女は言葉をなくした。
そして二人は、しばらく無言で芝生のグランドを見ていた。

春が遅いみちのくに、ようやく桜が咲き始めた頃だった。
女の子には珍しい「ラグビーおたく」の彼女は、学生時代にラグビーで活躍した憧れの彼とようやく普通に話せるようになった。
アドレスも交換し合い、差しさわりのないメールのやり取りも始まった。
地元の草ラグビー・チームのマネージャーとライバル・チームのエースの組合せは、ともすると妙な誤解や悪い噂を生みやすいが、バリバリの「ラグビーおたく」である彼女の場合は、これまで浮いた噂もなかった事も手伝って、周囲からはむしろ暖かく歓迎する流れがあった。

特に現役のラガーマンを自称する彼女の父は、むしろ大喜びだった。
できることなら、このまま「できちゃった結婚」でもかまわない、とさえ思ってた。

そうこうしているうちに、公式戦のシーズンがやってきた。
彼のチームは、格上なので、このシーズンでは彼女のチームと対戦することはなかった。
だから彼女は、彼のチームを思いっきり応援できたし、彼も彼女のチームの選手達に的確なアドバイスができた。
この調子なら、両方のチームが勝てそうだ。
彼女は、どうしても両方のチームに勝って欲しかった。
それというのも・・・・夕べ彼からメールがあった。
「明日の試合、君のチームと僕のチーム、両方勝ったら、二人だけで祝勝会しよう。」・・・だって。

さぁ~て、彼と彼女は、この調子で幸せにトライできるのかな?
ノーサイドの笛が鳴るまで、時間はまだまだ・・・。 みんな、ファイト!

music list

1.宇多田ヒカル/「Presoner of Love」
2.Going Under Ground/「初恋」
3.Itsco/Moter Water」
4.Melody/「遥花~はるか~」
5.松任谷由美/「ノーサイド」