【わけ:あり】ナイトクルーザー|「海を見ていた二人」2008/5/8

【わけ:あり】ナイトクルーザー

2008/5/9:海を見ていた二人
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《海を見ていた二人》
五月晴れの海岸に、彼女は一人たたずみ、海を見ていた。
2年前の今頃は、彼と二人で防波堤で釣りをしたり、浜辺で貝を拾ったりしていた。
海が好きな私のために、何もない週末には決まって海につれてきてくれた。
しかし、今年は彼女一人・・・・。
五月、花々が咲きそろい、木々がまぶしく芽吹き始めている。
すべてが輝きだす季節だと言うのに、彼女だけが季節に取り残された。
ただじっと遠い水平線を見つめ続けている彼女に、潮騒だけが優しかった。


彼と彼女は、高校の同級生。
彼女はバレーボールで県代表を目指したが、
卒業まで、ついにベスト4の壁は越えられなかった。
彼は、別の高校の友達とバンドを組んで、ちょくちょくイベントやコンサートに出ていた。
当時は、ただの同級生、友達としてふざけあう程度の仲だったが、高校3年の春、県代表を目指す彼女の最後の大会に彼が応援に駆けつけた。
ベスト8に勝ち残り、チームメートと抱き合って喜ぶ彼女の姿がまぶしかった。
本当に綺麗だと思った。
そして、準々決勝・・・・長年のライバル校に接戦の末に、負けた・・・。
バレーボールに賭けた彼女の高校時代が終わりを告げた。
負けてもけして泣くまい、と決めていた。悔いのない季節だったと信じたかった。
その大会の帰り道で彼は彼女を待っていた。
「惜しかったな」と優しく笑う彼をみて、抑えていた涙があふれた。
声を出して泣いてしまった。
その時初めて、彼は泣きじゃくる彼女を抱きしめた。
高校3年の春、そうして彼と彼女、二人の季節が始まった。

高校3年の春、バレーボールの大会を境に彼と彼女の恋は始まった。
しかし、大学進学を目指す彼も、就職試験を目指す彼女も、それなりに忙しかった。
二人きりで話ができるのは、ほとんど学校の帰り道だった。
たまには休日の図書館で、二人で勉強して、その後にお茶を飲む・・・
そんな可愛い恋だった。
受験生ながらも、彼は時々バンド仲間からコンサートの声が掛ると、バンド仲間と練習もしていた。
彼女はそれまで部活一筋だったので、彼のコンサートを聴きにいったこともなかった。
夏休みを目前にした週末、近隣の高校生や社会人がコンサートを企画した。
彼のバンドも出ることになったという。
友達を集めて欲しい・・・と彼から10枚のチケットを預かった。
9人の友達を連れて初めて彼のバンドのステージを見た。

彼の舞台は見てみたいと思っていたが、正直なところ・・・
所詮アマチュアバンド、しかも高校生バンドだもの、・・・期待はしていなかった。
ところが・・・物凄く上手くて、カッコイイ!彼女の知らない彼がそこにいた。
聞いたこともない歌だったが、それが逆に新鮮だった。
ギターを弾いて歌う彼が、これほど凄いとは・・・・。
むりやり連れて行った友達も驚き、絶賛するほどだった。

彼女のバレーと彼のバンド。
そんなふうに高校生だった二人は、季節を駆け抜けた。
高校卒業後、彼は地元の大学に進学し、彼女は公務員になった。
彼女は、地元のクラブチームでバレーボールを続けていたし、彼も大学で音楽サークルに所属し、バンド活動にも本格的に取り組んでいた。

彼女のチームは、高校時代ほどハードではないが、社会人クラブではそこそこのチームで、それなりに強かった。
地元のママさんバレーのコーチなども頼まれたりして、週末はほとんど体育館。
彼からは、「相変わらず体育館の匂いがする。」とからかわれた。
でも・・・「お前のその匂いが好きだよ・・。」と抱きしめられると、本当に嬉しかった。

彼は彼で、本格的なバンド活動にはまり、あちこちでライブをやっていた。
週末のライブには、バレーの練習後に駆けつけ、その後は彼の部屋で過ごした。
彼のバンドは、徐々に地元でも知られる存在となり、コンサートを重ねるたびに観客が増えていた。
取り巻きやファンも増えて人気もあがったが、彼は相変わらず謙虚で彼女にも優しかった。

バンドやバレーの練習もない週末は、よく彼と海にいった。
二人だけで並んで海を見ている時間が好きだった。
長い時間彼に肩を抱かれて波の音を聞いていると、いつの間にか眠っていた。
彼女は、これから先もこんな風に彼とずっと一緒にいると信じていた。
彼が大学4年の春、レコード会社が主催するバンドのオーディションがあった。
駄目モトで、彼のバンドのリーダーがデモテープをエントリーした。
それがなんと、一次審査を通過して二次審査である
東北ブロックのライブ・コンテスト出場が決まった。
それなりの大会で、バンドメンバーも気合が入ったが、リキミ過ぎたせいかミスが目立った。
その結果、本選出場には一歩及ばなかった、がしかし・・・・。
バンドは落選したが、レコード会社のディレクターから、彼だけに声が掛った。
「もしも、本気で音楽を続けたいのなら、東京に来い」とその人は言った。

彼は、彼女にも相談できずに悩んだ。・・・・・
バンドのメンバーとは、一緒に音楽を続けようと誓ってきた。
そのメンバーを裏切るように、自分だけが音楽の道を進んでいいのか・・・・?
彼女を残し、自分ひとり東京へ行くなんて・・・・・。

悩んだ挙句、彼は彼女に正直に相談した。
彼女は笑って、「自分を試して見なさいよ」とあっさりといった。
そして彼は決心を固め、東京へと旅立った。

それから2年。寂しくないといったら、嘘になる。
けれど、毎日のように彼から電話やメールがある。
会えない時間が続いたが、彼とはずっとつながっていると信じている。
こうして今は、一人で海を見ているけれど、いつかまた二人でこの海を見る日を信じている。
彼が必ず迎えに来てくれると信じている。

彼女が一人でハンドルを握る海からの帰り道、
バックミラーに海が見え、カーラジオからは、彼の歌が流れていた。

music list

1.パリスマッチ/「エンジェル」
2.ガーネットクロウ/「最後の離島」
3.eico/「Tiny Tiny」
4.izanami/「マーメイド」
5.町田俊行/「三日月のセレナーデ」