【わけ:あり】ナイトクルーザー|「彼が脱サラ!しかも農業!?そして彼女は・・・」2008/6/26

【わけ:あり】ナイトクルーザー

2008/6/26:彼が脱サラ!しかも農業!?そして彼女は・・・
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《彼が脱サラ!しかも農業!?そして彼女は・・・》

何かと気ぜわしい都市生活を捨てて、人間らしく自然の中で暮らしたい・・・
と夢見る若者が増えているとか・・・・
そこで実際に脱サラして田舎で農業を志した青年がいました。
しかし、ある日突然「自然の中で一緒に暮らそう。ついて来てくれ・・・」と
言われた彼女はたまりません。
そりゃ、彼のことを愛してはいるのでしょうが・・・・
さぁ~て、彼女の場合は、どうだったのでしょう?


彼女は23歳当時、情報機器メーカーに勤めていた。
短大を卒業後、親戚のコネなどもあってなんとかここに就職できた。
待遇も環境も良く、職場環境としては申し分なかった。
入社当時から仲の良かった彼とは、1年前から恋愛関係になった。
最近は、結婚もちょっと意識している。
でも、お互い仕事が忙しく週末限定のお泊りデートも月に1・2回程度。
むしろランチタイムに会社で話す時間の方が多かった。
話題はもっぱら自分達の仕事に関係した話ばかりだったけど、それでも、新しいアイデアについて熱っぽく語る彼の側にいる事が嬉しかった。

2・3年後には彼と結婚し、彼女は会社を辞めて専業主婦。
子供も2・3人で、平凡だけど幸せな家庭を築いてゆくのだろう、と感じていた。
それに・・・きっと彼は、この会社で出世してくれるだろう・・・と考えていた。

そんなふうに何事もなく平和な日々が続いた入社3年目のある日、彼の信頼する上司が、不条理な理由から、いきなり地方の営業所に左遷された。
上司を見送った夜、彼は飲めないお酒を飲んで、夜中に彼女の家にやってきた。

「僕は、このままこの会社に一生勤めていいのだろうか?」
「このままサラリーマンで一生を終わっていいんだろうか?」
彼女の胸に顔をうずめて、彼は呪文のように彼女に問いかけた。
彼女の心の中に、得体の知れない不安が影を落とした。
不条理な理由で、信頼する上司が左遷された日から、どうも彼の様子が変だ。
彼と彼女の平和な日々に、嫌な影が近づいているような気がした。
彼女は、彼との穏やかで明るい未来を信じていた。
彼だって子供じゃないんだから、サラリーマンの宿命は理解していると思ってた。
きっと時間が解決してくれるだろう・・・・。彼女はそう信じたかった。

彼が酔っ払って夜中に家にきた日から2週間が立った頃、彼から明るい声で電話があった。二人でちょっとした旅をしよう・・・という。
なんでも、グリーンツーリズムとかいうもので、農村で農業を体験する旅らしい。
どうせなら温泉旅行の方が良かったが、彼からのお誘いならどこでもいいと思った。
だって彼から「一緒に旅に行こう」なんて誘いは初めての事で、それだけで嬉しかった。

その旅の参加者は、彼と彼女を含めて8名。参加者が少ない事が不思議だったが、現地について納得した。
その地域では、グリーンツーリズムの参加者を受け入れる農家が少ないのだ。
過疎化と高齢化で人口も減り、農家の数も減っているという。

最初は、自然がいっぱいで感激したが、大嫌いな虫も多いし、紫外線も気になるし、その上ヘビを見たときには、すぐに帰りたくなった。
彼女とは逆に、彼は子供のように目を輝かせて体験農業を面白がっていた。
楽しそうな彼に促されて、渋々農作業を手伝ったが、これが予想以上の重労働。
やっぱり農家の嫁にはなりたくない。・・・と、その時は思った。

しかし、農作業の後に飲んだ濃厚な牛乳の美味しさは格別だった。
そして、産みたての卵、採れたてのトマトには・・・参った!
「これが、手塩に掛けた味なんだ」と実感した。

その旅の帰り道、これで彼が以前のように元気になってくれるだろう・・・・
と彼女は、彼との平和なサラリーマン生活が戻ると考えていた。
グリーンツーリズムの旅の後、彼と久々にイタリアン・レストランで食事した。
その店は、彼が彼女に交際を申し込んだ場所で、二人にとっては特別な場所だった。
店の名前を聞いたとき、もしかすると・・・・結婚の話かな・・・と密かに期待した。

しかし、そこで彼女は、ありえない彼の言葉に、耳を疑った。
「僕、会社を辞めて農業をやろうと思うんだ。」
「お爺さんが、岩手で一人で農地を守ってるんだ。そこを手伝おうと思う。」
彼女はあまりの唐突な話に言葉も出なかったが、先日の旅をだしにした冗談なんだ・・・・と思い笑ってみせた。
しかし、彼の真剣な眼差しが、本気だったことに改めて驚いた。
グリーンツーリズムの農業体験が、自分の生きるべき道を教えてくれたという。
コンピュータの技術者から農業・・・・誰もが信じられない話だ。
彼女は、もちろん猛反対した。
彼女が結婚を考えるほど大好きな彼は、「サラリーマンの彼」なのだ。

しかし、彼女の気持ちは意にも介さず、彼は脱サラ計画を彼女に話し始めた。
「お爺さんの農地があるとはいえ、いきなり農業を一人ではできないだろう。
だから、最初は地元の農協に頼んで農家の手伝いからはじめる。
農業とはいえ、最低限の生活のためにも売れる農作物を作ろうと思う。
あの地域なら、リンゴとか和牛かな・・・・。もちろん稲作も覚えなきゃね。」
最近ずっと見たことのない笑顔で、彼は嬉しそうに農業を営む自分の将来像を語った。

「・・・だから、農業で生活できる目処が立つまで、待っててくれないか?」
彼女の目を真っ直ぐに見つめて、彼はそう言った。
しかし、彼女はうなずけなかった。
だって・・・どんなに彼を愛しているとしても、私は農業なんて出来ない!
虫も嫌い、ヘビも嫌い、紫外線は敵。
もっと大人になって、サラリーマン生活を受け入れたらいいじゃない!
結局、二人はそこでケンカ別れ・・・・・。

彼女は、その後も彼からの電話もメールも拒み、きちんとお互いの意思を確かめることもなくやがて彼は会社を辞め、新天地・岩手に旅立った。
両親をはじめ、彼女や友人知人からも猛反対されたが、彼の意思は固く、会社を辞め、お爺さんが一人暮らす岩手の農家に移り住んだ。

「待っていて欲しい・・・」
彼女は彼が真剣な眼差しで語ったあの言葉を心の中で繰り返した。
「待つ」って、いつまで待つの?
待っていれば私は虫が好きになるの?農業が出来るようになるの?
私はそろそろ24歳。彼を待つなんてできっこない!彼とはもうお仕舞い!
そう心に決めては見たが・・・・、彼が去ってからというもの、彼の事ばかり考えていた。

そんな彼女を見るに見かねて、彼女の友達がコンパに誘ってくれたが、
コンパに来る男達は、どれも一様に都会暮らしが染み付いた軟弱な男ばかり・・・。
たまに硬派な体育会系がいて、ちょっと付き合ってみたが・・・結局、身体目当てだった。
彼とあんなふうに別れてから1年半、3人の男と付き合ったが、長続きしなかった。

そうこうしているうちに、景気はドンドン悪くなり、勤めている会社もリストラが始まった。
彼が心から信頼していた上司も会社を辞めて「蕎麦屋」を始めた。
20代でも規定の倍の退職金が出るという・・・・。
あれだけ安定して、明るい将来が約束されていた会社が、危うい砂の城だと知らされた。
そして彼女は会社を辞めた。
「待っていて欲しい」彼はそういったが、彼女は彼を待てなかった。

貯金をはたいて彼が好きだといった赤いワゴンを買った。
必要な家財道具と身の回りのものをいっぱいに積み込んだ車に乗って、彼女は彼の元にゆっくりと走り出した。
助手席には、友達が餞別にとくれた、UVカットの日焼け止めと虫除けがどっさりと積まれていた。