2008/8/29《再会の夏祭り》

《再会の夏祭り》
今年の夏も、そろそろ終わりの気配。
長期予報では、「暑い夏」と予想されたけど、案外涼しい夏だった気がしてます。
そんな東北の短い夏だったけど、あちこちで様々な恋模様があったでしょうね。
特に各地で繰り広げられた「夏祭り」では、出会いや再会など、
沢山の物語が生まれたようです。今日は、そんな夏祭りでの再会のお話です。
彼女は、地元の商工会に勤める27歳。
学生時代までは、夏休みは長期の泊りがけで、海へ山へと遊びに行ってたけど、
商工会に務めてからここ数年は、まともな夏休みはなし。
お盆休みも、地元恒例の「夏祭り」の準備や裏方仕事に駆り出され、家のお墓参りさえ、ままならない有様だった。
それでも、夏祭りが多くの帰省客でにぎわうと、裏方としてはそれなりに充実感はあった。
夏祭りの沢山の人出を見ると、寂れたこの町のどこにこんなに人がいたんだろう???
と、つくづく感じていた。
彼女が、案内所でぼんやりとそんなことを考えていると、「よう、元気か?」と、聞き覚えのある懐かしい声がした。
見上げるとそこに高校時代の同級生で、片思いだった彼がいた。
彼は、地元を離れて関東の会社に勤めていて、久々に帰省したという。
これから何人かの同級生と一緒に飲むから、後で合流しようと誘われた。
商工会に務めてからは、ときめく出会いなんてなかったから、久しぶりに、しかも突然再会した片思いだった彼に誘われて、彼女のテンションは上がった。
後片付けもそこそこに、同級生が待っている居酒屋に駆けつけた。
懐かしい顔が揃い、昔話に花が咲いた。
酔うほどに、あちこちから「実は・・・」という、あの頃の暴露話に展開していった。
今明かされる10年前の真実・・・・とか言って、かなり盛り上がった。
そこで彼が、思いがけずポツリと言った。
「実は俺、あの頃お前に惚れてたんだよ。」
片思いだった彼からの突然の告白に、彼女は激しく動揺した。
「冗談でしょう!」と笑って誤魔化したが、しかし、内心物凄く嬉しかった。
消えかけた恋心に、再び「ボッ!」と火がついた。
彼は、高校を卒業後、仙台の大学に進み、
その後すぐに就職はせずに、2年ほど海外で放浪の旅をしたと言う。
風の噂で、そこまでは彼女も知っていたが、その放浪の旅で彼が見た様々な話に彼女は思わず聞き入った。
インドとチベットで、事故に巻き込まれ、死ぬかと思ったとか・・・・
ニュージーランドの魅力にとりつかれ、一生ここ暮らそうかと、本気で考えたとか・・・・
でもやっぱり、田舎の長男として生れた以上、どうしても両親のことが心配で、日本に帰ってきたと言う。
今は、実家を離れて関東の会社に勤めているけど、いずれ近いうちに地元に帰るという。
彼女は、その話を聞いて、更に心がときめいた。
高校時代、片思いだった彼が、「実は私の事が好きだった・・・」。
そして、その彼が彼女の側に帰ってくる。それだけで、彼女は気絶しそうなほどに嬉しかった。
でも・・・・
このご時世に、地元に彼のような人材が活かされる会社があるんだろうか?
商工会勤務の彼女だからこそ、そこが急に心配になった。
「帰るといっても、お勤めはどうするの? どこかあてはあるの?」
すると彼は、「実は、一関に12月に開業するちょっと変わった温泉に興味があるんだ。」
「ただの温泉旅館じゃないんだ。エンターテイメントと癒しを提供する温泉なんだ。」
と言う。
「エンターテイメントと癒し・・・・?」
一体どんな温泉なんだろう?
でも、情報通の彼が、そこまで言うからには、相当面白い温泉なんだろうな・・?
彼女は、俄然興味を持った。
高校時代の同級生で、片思いだった彼と、夏祭りの夜に偶然に再会し、仲間達と久々に飲んだ夜。 彼女は、彼の話に引き込まれていた。
旅の話や地元へ帰ってくる話、そして彼が地元で勤めようとしている
新しいスタイルの温泉の話・・・・。
いつまでも、ずっと彼と話していたかった。
酔った勢いもあって、ちょっと大胆に彼女は彼にもたれかかってみた。
すると、彼は自然に彼女を支えてくれた。その感じが凄くしっくりした。
その後、居酒屋で仲間達と別れ、二人は川沿いの道を並んで歩いた。
「実は、あの頃、私も貴方の事が好きだった。私の片思いだと思ってた・・・。」
そういうと彼は、立ち止まり黙って彼女にキスをした。
そして、二人はその夜、10年越しの恋を実らせた。
彼女にようやく幸せの予感が訪れた。
夏休みが終わり、彼も一旦、関東へ帰るというので、ひとまず彼を見送った。
彼が、地元に帰るまでしばし遠距離になるけど・・・これまでの時間を思えば、どうと言う事もなかった。
しかし、恋する女は複雑なもので・・・、距離が近かろうが、遠かろうが、大好きな彼の事をあれやこれやと深読みしてしまう。
「聞き忘れたけど・・・・彼には、付き合っている彼女とかいないんだろうか?」
「彼ほどの男なら、女の一人や二人、いてもおかしくない・・・。」
「もしかして私、ひと夏の遊び相手だったの????」
嗚呼、恋する女は、どうしてもこうも愚かなんだろう・・・。
夏休みが終わり、地元に帰るまでの間、一旦遠距離になった彼からは毎日のようにメールが入った。
もちろん彼女も、毎日彼にメールした。でも、「誰か付き合ってる人いないの?」とはなかなか聞けなかった。
彼女は、ただただ疑心暗鬼の毎日だった。
劇的な再会から一ヵ月後、突然彼からの電話で、明日就職面接があるので帰ると言う。
この一ヶ月、本当に長かった。一ヶ月がこんなに長いと感じた事はなかった。
遠距離恋愛って、こういうものか・・・・彼女はつくづく実感した。
帰ってきた彼は、真っ先に一関の面接試験に向かった。
紳士的な社長は、今年12月に一関に開業するユニークな温泉施設の話を熱く語ってくれた。
365日毎日行われるエンターテイメント・・・・・
これまでの温泉施設のイメージを一新する空間デザイン・・・
彼は、その新しい温泉に「夢がある」と感じた。
社長も、ユニークな経歴の彼を気に入ってくれて、即座に内定が決まった。
その朗報を抱えて、彼は彼女の家にやって来た。
もやもやした気持ちの彼女にはお構いナシに、彼はその温泉の話やこれからの段取りを嬉しそうに彼女に話した。
しかし、どうも彼女の表情が暗いので、「どうしたの?何かあった?」と聞くと「ねぇ、向こうで付き合ってる人とかいないの? 私で大丈夫なの?」
これまで彼に聞きたくても聞けなかった事を思い切って聞いてみた。
すると彼は、
「付き合っている女性がいるのに、別の女性とエッチするなんて・・・
僕が旅した国々では、そんな裏切りは許されないんだよ。」
彼は、笑いながらそういって彼女を抱きしめた。
「さて、就職先も決まった事だし、次は結婚の準備でもするか。」
冗談めかして彼は、彼女の耳元でそうささやいた。
やれやれ・・・どうぞご勝手に!
ところで・・・・一関に12月にオープンするエンターテイメントと癒しの温泉、あれ、本当に出来るんですよ。今から楽しみですね・・・。
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